虫垂炎について
外科医長 板橋 英教
今回は一般的には盲腸といわれていますが、虫垂炎についてお話しさせて頂きます。
虫垂とは右下腹部にある盲腸から出ている細長い器官で、その部分に炎症が起きる病気です。1,000人に1~1.5人の割合で発生頻度が報告されています。虫垂炎の発症のピークは10~20代ですが、小児や高齢者も含めてどの年齢層でもみられます。
虫垂炎の原因はまだ完全にはわかっていませんが、糞便(糞石)や異物、稀には腫瘍などで虫垂の入り口が塞がること、狭くなることがきっかけになると考えられています。これにより、虫垂の内圧が上昇して血行が悪くなりそこに細菌が進入して感染を起こすことで急性の炎症が起こると考えられています。
典型的な症状としては、上腹部が突然痛み出し、次に発熱、吐き気や嘔吐、食欲不振が起こります。その後右下腹部に痛みが移ってきます。しかし、こうした症状は虫垂炎に特有というわけではなく、その他の病気(尿路結石、急性腸炎、大腸憩室炎、骨盤内での炎症)などでもみられます。この為、診断に際しては、これらの他の病気も視野に入れながら、おなかの所見(触診)や採血、腹部のX線撮影、CT検査や超音波検査などの結果を総合的に診断します。
また、おなかの所見が非典型的または不確かな場合、特に訴えのあいまいな子どもや、症状・発熱、白血球増多などの現れにくい高齢者では腹部超音波検査やCT検査等の画像検査により虫垂の形態的な変化を確認して診断します。これにより、虫垂内部の糞石や、虫垂の周りのうみ(膿瘍)や腹水、腸管の麻痺像も確認できます。
治療法としては、炎症が軽い場合は抗生物質による点滴の治療で改善する場合もありますが、10~20%で再発するとされています。
中等度から高度の炎症の際は、手術が必要です。現在、当院では腹腔鏡を用いた手術を行っています。腹腔鏡による手術は、おなかに小さな穴をあけ、お腹の中をカメラで見ながら虫垂を切除する手術です。傷が極めて小さく、入院期間も3~4日程で早期退院が可能です。
腹痛、嘔吐、発熱という虫垂炎の主症状がそろっている場合にはもちろんですが、典型的な症状が出ていなくても、虫垂炎を疑った場合には、医師の診察を早く受けるべきと考えます。虫垂炎は自然によくなることはなく、放っておくと、穿孔して腹膜炎を起こし命にかかわる場合もあります。とくに小児の場合は、症状が出現してから穿孔を起こすまでの時間が短いと言われていますので、注意頂ければと思います。