脳梗塞を疑ったときは
脳神経外科 齋藤 真
ある日救急当番をしていると、1人の患者さんがご家族と共に来院されました(架空の人物です。実際の患者さんではありません)。お話を聞くと、前日の朝に歯を磨いていたところ、突然右半身の脱力感と喋りづらさを自覚されたそうです。時間が経てば良くなるかなと思い、その日は1日様子を見ていましたが、翌朝になっても良くならないため病院受診を決意されたとの事でした。 頭部MRI検査を行ったところ左大脳半球の脳梗塞が判明したため、即日入院となり、点滴による治療が開始されました。
この様な患者さんの場合、勿論入院治療が必要なのですが、あくまでその目的は脳梗塞再発予防や、これ以上症状を悪くさせないための治療、という意味合いが強くなります。発症からの時間が経ち過ぎてしまうと、症状を取り除く事が難しいのが現実です。
脳梗塞は時間との戦いです。発症からの時間が短ければ短いほど、より積極的な治療を行う事が出来ます。発症時刻が明確に分かっており、かつ発症から4時間30分未満であれば、いくつか条件はありますが、脳の血管に詰まった血の塊(血栓)を溶かす治療(血栓溶解療法)や、カテーテルを使って血の塊を直接取り除く治療(血栓回収療法)があります。 またこれらは並行して行うことが可能であり、実際にこの二つの治療を並行して行い、血栓を回収できた患者さんを経験しています。
最初の患者さんのお話は、あくまで例として挙げたものですが、この様に脳梗塞が疑われるような症状が出ても、暫く様子を見たり、病院受診を躊躇われたりする方は決して少なくありません(日本人特有の奥ゆかしさなのでしょうか)。我々治療を行う立場としては、「もっと早く来てくれていたら」と思ってしまう事もしばしばです。 以前、救急車をタクシー代わりに使ったり、明らかに軽症と思われる風邪症状で救急車を呼ぶなど、安易な救急車利用が取り沙汰された事がありますが、必要な時には遠慮せず利用して頂きたいと思っています。脳梗塞を疑って、でも救急車を呼ぶべきか否か、もし迷ってしまったのなら、その時は遠慮なく救急車を呼んで下さい。我々が皆さんの後遺症を少しでも減らせることが出来れば幸いです。