顔面けいれんや三叉神経痛は機能的な脳神経外科の範疇に属し、疾患自体が生命にかかわるものではない一方、食事ができない、歯が磨けない、人に会うことを躊躇してしまう等の日常生活の根源にかかわり、ADL(日常生活動作)を大きく損ねている場合もあります。
緊張・疲れ・ストレス・季節の変わり目などが誘引(血圧変動と関連)となる可能性があり、頭蓋内で神経に微小な血管が接触していることが原因です。
顔面けいれんは男性で10万人あたり7.5人、女性で15人、三叉神経痛は男性で5人、女性で10人程度有病しており、ともに1対2で女性に多いと言われています。
片側の顔面の筋肉が、無意識のうちにぴくぴく引きつるように動いてしまう疾患です。けいれんは、不随意に、発作性に、反復性におこります。最初は眼瞼のぴくつきから始まり、時間経過とともにけいれんの範囲や程度・頻度が増え、鼻・口の周囲に広がります。初発から期間が長くなり、けいれんが頻回に起こるようになると、顔面神経麻痺も起きるようになってしまいます。
命に関わる病気ではありませんが、特に顔貌を大切にする女性にとってはわずらわしい疾患であり、残念ながら女性に多くみられます。顔面の筋肉の動きは、顔面神経により行われており、顔面けいれんと呼ばれます。
顔面に突然起こり、走るような激しい電撃痛です。数秒以内で消え、痛みがない時間には何ら症状がありません。突発的に起こることもありますが、冷たい風にあたったり、食事をしたり(物を噛んだり)、歯を磨いたりすることで誘発されることもあります。症状が進行すると、痛みのため食事をとることも、話をすることもできなくなります。
顔面の感覚(痛みや触覚)は、三叉神経により脳に伝わっており、三叉神経痛と呼ばれます。初期は第1枝領域(前額部)または第2枝領域(頬)あるいは第3枝領域(口角)に現局する痛みですが、2枝領域以上に広がることがあります。第3枝領域の場合、虫歯の痛みと区別が難しいので歯科を受診し、三叉神経痛と診断がつくこともあります。また注意すべきことに三叉神経痛の10人に1人に脳腫瘍が見つかるという報告もあり、三叉神経痛の患者さんには、一度は頭部MRIでの精査をお勧めします。
顔面けいれんや三叉神経痛は、それぞれ顔面神経と三叉神経に対する血管圧迫が原因で発生します。もともと神経も血管も狭いスペースに存在し近接しており、たまたまこの神経と血管がぶつかってしまった状態なのです。顔面神経や三叉神経は、“脳幹(のうかん)”と呼ばれる脳の部分から出て、頭蓋骨の小さな穴を通り、顔面に分布します。神経が脳幹から出た直後の部分で、血管(多くの場合は、直径1ミリ程度の動脈)により圧迫され、顔面けいれんや三叉神経痛が生じます。通常この血管は動脈であり、心臓の鼓動と同じ回数拍動し神経をたたくように圧迫しています(図1)。持続的な血管圧迫により障害された神経が、異常興奮をおこすことで、顔面の突発的なけいれんや痛みがおこるようになります。そのため神経に対する血管圧迫を取り除くことにより、病気の治療ができます。
顔面けいれん
三叉神経痛
図1
微小血管減圧手術を行う前に、FIESTA法と造影SPGR法と呼ばれる特殊なMRI検査を行い、神経と神経を圧迫している血管の関係を確認します。顔面けいれんや三叉神経痛の原因となっている神経や血管は、わずか1ミリメートルほどの太さであり、このように小さな神経と血管との関係を、正確に評価できます。手術前に正確な診断が可能で、手術をより安全により効果的に行うことができます(図2、3)。
顔面神経の根元に動脈が接触している。
図2
三叉神経の根元に動脈が接触し三叉神経は変形している。
図3
皮膚切開は約5cm、500円玉程度の小さい開頭を行います。
髪の毛の生え際に隠れる部位の小さい傷で手術可能です。
図4
顔面神経の根元に接触していた動脈を移動、顔面神経の根元はくぼんでいた。
図5
皮膚切開は約5cm、500円玉程度の小さい開頭を行います。
髪の毛の生え際に隠れる部位の小さい傷で手術可能です。
図6
三叉神経は裏側から血管に圧迫され変形している。
血管を移動し三叉神経の変形が解除され真っ直ぐになっている。
図7
AMR:適正に手術を行い、顔面異常筋電図が消失している。
ABR:聴性脳幹反応は手術中軽度延長したが、手術終了時には正常に戻っている。
図8
NC4 (ZWISS)
Pentero OPMI (ZWISS)
Leica OH4-M525
図9
KINEVO 900 (ZEISS)
図10
間接的に関与している太い椎骨動脈を移動後、顔面神経の付け根から責任血管を移動した。
図11
顔面けいれんも三叉神経痛も良くなったり悪くなったり症状の波があります。季節の変わり目に悪化したり、ストレスや疲れの程度でも変化する病態です。一方で気候や気温が安定したり、ストレスがなくなったりすると症状はいったん改善します。
しかし、加齢とともに血管の動脈硬化が強くなり、血管が神経により強くあたるようになると徐々に症状は強くなって行く傾向があります。全身麻酔が安全に行える若いうちに根治術を検討していただくことが重要と考えています。
また顔面けいれんは放置していると顔面神経麻痺が出現するようになり、手術も難しくなります。
症状があって画像所見が合致すれば、外来でよく相談をしながら、手術のタイミングを決めることが重要です。
術前に循環器科で心臓の精査を行い、全身麻酔が可能であれば年齢は問わず手術ができますので、タイミングを逸しないようにすることが最も大事なことだと思います。
術前の患者様の暗い顔が術後に明るい本来の朗らかさに戻って退院される姿を拝見できることは、治療に携わる我々にとって無上の喜びであります。お困りの患者様がいらっしゃれば、ぜひご相談ください。
院長 兼 脳神経外科部長 西村真実