健康のありがたさ
リハビリテーション統括センター長・脳卒中後遺症センター部長 今泉 茂樹
「健康のありがたさを知るのは病人だ」大正期夭折の洋画家 中村彝(つね)の言葉です。大きな病気を克服された患者さん、現在病気と闘っている方、懸命にリハビリを続けている方々は、まさにこのような心境になられると思います。さらに「自分か、身近な者が病気になってみなければ、医者も患者のことは分からない」のかもしれません。
では事前にこの健康のありがたさを知るためには?健診、脳ドックなどの予防医学が広く行われています。現代人はこの進歩した医療の恩恵を、ほぼ等しく受けることができます。病気がみつかった場合も、医療機器(MRI、CT など)、医療技術(外科手術法、顕微鏡手術、内視鏡手術、レーザー手術、放射線療法、陽子線療法 他)、薬剤(新たな胃潰瘍薬や降圧剤 他)などの進歩や開発はめざましいものがあります。さらに大切なのは積み重ねた医療知識(Evidence basedmedicine=根拠のある医療)すなわち偏りのない医療が広く一般病院で行われるようになり、医師の多くは謙虚に、セカンドオピニオンのため患者が希望すれば他の病院への紹介を行うという時代になりました。
いろいろな医学番組がテレビでも流れていますが、なかには無責任と思える報道もあります。先日、朝の血糖値が108mg/dlで、健診の結果が糖尿病と診断された方への健康アドバイス番組が放映されていました。確かに多くの健診センターで朝食前血糖値の上限は109mg/dl までですが、この方はセーフなのでは?過大評価は患者を不安にさせます。
脳ドックでも同様です。「未破裂脳動脈瘤があります」とだけ告げられても、患者はノイローゼになります。健診の真髄はアフターケアにあり、年間の破裂率が0.54%であり(その意味も説明要)、破裂にかかわる危険因子は年齢50歳未満、大きさ4.0mm以上、高血圧、多発瘤、喫煙もよくないことなどの冷静な説明が必要だと思うのです(当グループは合格)。
米国からの患者参加型の医療が、日本でも叫ばれるようになりました。その本質は、患者も自らの病気をよく識しり、医師や医療スタッフと共に治していくということのようです。