安全な手術を目指して
脳神経外科医長 奥山 澄人
最近のクルマの技術発展は目覚ましく、先行車や歩行者を検出して未然にブレーキを踏んでくれたり、ドライブレコーダーの普及により、以前より詳細な事故の原因を究明することができるようになりました。この25年で日本の交通事故死者数は3分の1にまで減少しているそうです。
実は脳神経外科の手術にも安全装置が普及しています。脳の手術は主に全身麻酔で行うため、術後に手足に麻痺が出ているか、視力聴力は問題ないか麻酔が覚めるまで分からないのが現状でした。そこで脳機能の安全を守るために欠かせないのが脳機能モニタリングです。体性感覚誘発電位と呼ばれる手法は、手足を電気刺激すると(麻酔中のため痛くありません)脳の感覚野において関連する脳波が記録できます。脳の運動野と感覚野は隣接していて同じ血管から血流を受けるため、感覚に異常がないことがわかると運動機能にも問題がないことが推測されます。感覚野の脳波に異常がないことを確認することで、広範囲の脳の活動が正常に維持されていることが分かるのです。
内頸動脈瘤根治術や内膜剥離術といった手術では手術中に広範囲の脳血流を遮断する必要があります。長時間の遮断により脳梗塞に至る可能性があるため、脳機能モニタリングが欠かせません。従来、この手術に対しては手のみ刺激を実施するのが一般的でありました。最近、当院では内膜剥離術の際、足に刺激を加えてみた所、これまでの1.7倍、脳波異常を見つけられることを初めて発見し、世界に向けて報告しています。脳波検査は専門性も高く、難易度の高い検査でありますが、手術中、当院の優秀な検査技師が常に見守っていますので執刀医も安心して手術を続けられます。
当院では脳、脊髄の予定手術では常にモニタリングを行って安全な手術を心がけています。今後も患者さんに安心して手術を受けて頂くため、努力を続けていきます。