心不全パンデミック(前編)
循環器内科科長 密岡 幹夫
コロナウイルスによる新型肺炎の流行がテレビや新聞で報道され、1月以降大きな社会問題となっています。世界保健機構(WHO)は2月初旬の時点でパンデミックには至っていないと発表していますが、4月には日本でもかなり広まっているかもしれません。パンデミックとは本来はコロナウイルスやインフルエンザウイルスなどによる感染症が世界的に大流行することを言うのですが、最近「心不全パンデミック」という言葉も使われるようになってきました。
心不全は「心臓が悪いために息切れやむくみが起こりだんだん悪くなり生命を縮める病気」と定義されており、コロナウイルスやインフルエンザウイルスのような感染症ではありません。人から人に伝染する病気ではないのに、どうしてパンデミックという言葉を心不全に対して使うことになったのでしょうか?これは2019年の米国の有名な医学雑誌に「米国で心不全による死亡が激増」という記事が掲載されたことからもわかるように、心不全が世界的に激増しているからです。
パンデミック化して激増する心不全に対して私たちはどう対処したら良いのでしょうか?それを探るために日本循環器学会の最新の治療指針を見てみます。指針では心不全をA・B・C・Dの4つのステージに分類しています。ステージAとBは心不全の症状がない段階、ステージCとDは心不全の症状が出てきた段階を示しています。ステージAやBは心不全の症状がない段階ですから、これに対する医療は予防と言うことになります。心不全は発症してからでは対処が難しくなりますので早い段階での予防が重要です。以前の指針には心不全の症状がないステージAやBについてほとんど記載がありませんでしたが、最新の指針にはこれを重要な段階と位置づけて詳しい説明が加えられています。
ステージAは高血圧、糖尿病などの心不全の危険因子を持っている段階です。高血圧や糖尿病があっても症状がないことがほとんどですから放置している方が多いのですが、これでは将来の心不全を予防できません。生活習慣に気をつけても改善が得られない場合は医療機関を受診して治療を受けることが大切です。
ステージBは心臓の働きに異常が現れてきた段階です。心臓の働きの異常は高血圧による心肥大や心筋梗塞が原因となっていることが多いとされていますが、不整脈や心臓弁膜症が原因となっていることもあります。検診などでこれらの病気を指摘されたら、医療機関を受診して精密検査を受ける必要があります。検査でステージBの段階と診断されたら、原因疾患の治療を早期に開始することが重要です。
(5月号に続く)