最近の医療の進歩と肺がん診療・予防と検診
呼吸器センター長 宮本 彰
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行で世界中の人々が苦しんでいる最中ですが、皆さまは(これを御覧になる頃には)如何おすごしでしょうか。
最近の医療の進歩は目覚ましいものがあり、ここ数十年で様々な病気の治療法が開発・確立され、中にはほぼ克服したといえる疾患もあります。認知症や骨粗鬆症などはまだ発展途上ではありますが、今後新薬が開発されることで数十年後には完全に克服できているのではないかと個人的には考えています。そうすると日本人の長寿傾向はさらに強まり、なおかつ、認知症のない活動的な高齢者があふれてくると考えられます。すると次に起こる問題は雇用問題かもしれません。元気で頭脳にも体力的にも衰えの少ない高齢者が仕事を求めて若者と雇用の奪い合いになるかもしれません。既にAIの導入によって人間の労働者は需要が減りつつありますからこれは深刻かもしれません。
私の携わる呼吸器の領域ではまだ未解決の疾患が多く、その治療はまだ発展途上にあります。そのひとつである肺がんに関しては2015年以降、免疫治療薬が登場したことと、新世代の分子標的治療薬の登場で、進行肺がんの薬物治療は大きく様変わりしました。しかしそれでも全体としてはまだまだ十分な生存成績ではなく今後の進歩に期待されるところです。
このような現状の中でがん死せずに健康な生活を続けていくためには、平凡ですが、がんにならないための生活習慣の獲得(1次予防)と、万が一がんになった時の早期発見(2次予防)に尽きます。
肺がんに絞って話しますと、肺がんにならないためには①喫煙しないこと、または禁煙することです。そして最近新たに指摘された知見ですが、②食物繊維を多く含む食品とヨーグルトを多く摂取すること、です。これらの食材の摂取で肺がんのリスクを最大33%も低下させる可能性があることが指摘されたのです(JAMA Oncol.2020;6(2))。
肺がんの早期発見のためには肺がん検診の受診が勧められます。ただし、胸部レントゲンよりも胸部CTによる検診の方がより早期発見の効果は大きい可能性があります。レントゲンがいいのかCTがいいのかについては現在も国を挙げて調査中ですが、少なくとも喫煙のあった方についてはCT検診が優れていることが世界的にも示されています。
皆様ががんを予防し、がん検診を受けることで健康で長生きができるよう願って止みません。